【速報】I2TA3月公開シンポジウム報告

公開シンポジウム
テクノロジーアセスメント(TA)はどのように政策や社会に貢献できるか?
2011年3月7日(月)14:00-16:40 福武ラーニングシアター


去る2011年3月7日(月)、I2TA公開シンポジウムが開催されました。このシンポジウムでは、3名の演者からの講演と6名のパネリストによるパネルディスカッションにより、TAの意義から制度化までの議論がなされました。

最初の演者であるマイケル・ロジャース氏(元欧州委員会委員長科学技術政策顧問)からは、政策過程における専門家によるアドバイスをテーマにご講演いただきました。
 TAで示される科学技術の専門家が真摯に検討した結果は、政策決定過程において尊重されてしかるべき重要な情報であるし、場合によっては専門家が自ら積極的にアドバイスを与える場合もあってよい。ただし、この専門家による検討は透明性が高い状況で行われることが重要であり、政策に貢献できるだけの実効性の高いものであることが必要となるだろう、と述べられました。さらに、TAは政策決定に重要な示唆を与えるものであるが、それだけでは十分ではなく、倫理的検討や社会の関心に関する検討もあわせて必要となることが具体的な例とともに示されました。たとえば、人体に情報通信技術であるチップを埋め込むことも技術的には可能となるが、これが人のプライバシーや人権にどのような影響を与えるのか、倫理的検討および社会の受け止め方について検討されるべき重要な項目を含むことが紹介されました。

二人目の演者であるフランス・ブロム氏(オランダ・ラテナウ研究所TA部局長)からは、「TAが信頼に値するものであるか」という刺激的な観点から、設立から25周年を迎えたオランダ・ラテナウ研究所の経験を語っていただきました。
 同氏からは、TA機関として重要なことは、①政策決定者だけではなく国民のためにTAを行っているということ、②社会にとって信頼されるべく事実を幅広く認識し、様々な観点をとりいれるべきこと、③社会との関連性をつねに意識し、対話や社会の動きに応じた対応を行うことがあることが示されました。とくに社会の複雑化にともなう多元的構造のなかで、政策決定をすべきことに注意を払わねばならず、技術によって生活のスタイルが変わっていくことなども検討することがTAの意義であるとされました。
 さらに、TAにおける市民の役割としては、有権者であるとともに、市民自体が知識の源であるとの役割が示されました。市民との対話にはどのような対象を市民として切り取るかの点や手法についても難しい側面もある一方で、重要なプロセスでもあります。
 もう一つの大きな問題提起として、TAが社会との関連性をもつために、議論を喚起すべくあえて異論をはなつという姿勢もありうるのではないだろうか、との点がありました。TAが議論を喚起し、社会全体が問題意識をもつようになる、ここにTAの貢献があるのではないかと指摘しました。そして、議論喚起としてのTAの役割を果たすためには、メディアとの関係や政策への理解が不可欠な要素となることが示されました。

最後の演者は、I2TAリーダーである城山英明(東京大学公共政策大学院教授)より、現在の日本におけるTAの意義について、歴史的教訓を踏まえた講演がありました。
 TAが政治や行政、社会に貢献できる6つの機能が示され、さらに、これらの機能に関連するI2TAプロジェクトでの実践と成果に関して報告されました。また、TAの歴史的試みとその教訓としては、従来の実践は、アドホックな実践かつ限定的な関心にとどまっていたことや、手法においても社会における価値の多元性を十分扱いきれなかったことが示されました。さらに、TA機関の制度化にむけた課題として安定財源の確保や人材育成、ネットワーク構築について言及されたほか、TAを将来的に担ういくつかの可能性が示されました。

続くパネルディスカッションでは、科学技術の政策決定支援の仕組みについての課題やしかけについて、特に政策決定者の立場から国会議員の方々、研究者の立場から加藤和人氏(京都大学)、さらに英国議会のTA機関であるPOSTのデイビッド・コープ氏の間で議論が交わされました。

まず、政治サイドの問題意識として、遠藤乙彦氏(公明党衆議院議員)より、TAの意義は、科学技術の弊害をどう規制していくかの側面とともに、技術が雇用や経済成長にどのように貢献するかについても議論していくことにあるとの指摘がなされました。ただし、TAが社会に定着するためには、より時代に即したネーミングが必要ではないかとの政治家らしいコメントもいただきました。
 医師であり、弁護士でもある古川俊治氏(自民党参議院議員)からは、医療技術の発展に伴うリスクや倫理的、法的な問題に対応するものとしてTAの重要性を捉えるとともに、現在の審議会などで行われる技術に対する評価は、一般の人には理解の難しい議論であり、これら理解困難な問題を社会に伝えていく活動としてTAの意義があるのではとの期待が示されました。
 藤末健三氏(民主党参議院議員)からは、科学技術イノベーションの成果をいかに経済成長に結びつけるのか、という視点から現在、議会に科学技術イノベーション戦略本部を作ろうとの動きがあることが説明されました。
 
次に、研究者コミュニティの立場から加藤和人氏(京都大学准教授)より、TAに対する研究現場の期待として、研究者コミュニティが積極的に規制に働きかけ、規制サイドとの相互のインタラクションにつなげていく重要性が指摘されました。日本の研究者コミュニティは、これらの活動に他国に比べ遅れをとっている状況である一方、日本人類遺伝学会、再生医療学会、ゲノムELSIユニットなど、現場からの提言を行う活動も紹介されました。

一方で、英国TA機関POSTのデイビッド・コープ氏より、日本とイギリスでTAの機能を社会に導入していく過程の比較についてコメントされました。イギリスでは、科学の発展に伴う様々なコンテクストの中で、政治哲学としてのTAの必要性が検討されました。現在も国民によるTAへの期待は高く、とくに現在のヨーロッパ経済の衰退の打開策として科学技術のTAへの期待もあるようです。日本においては、研究資金の投入に対する効果についての行政のTA的な関心はある一方で、政策決定の場だけではなく、社会における評価をより習慣化していく必要があるのではないかとの指摘がされました。

その後の議論の中でも、TAの役割は技術の生み出す弊害を規制という側面だけではなく、雇用や社会経済の向上にどう貢献するかという点で捉えられるべきであるとの強いメッセージが発せられました。また、津村啓介氏(民主党衆議院議員)より、上記の点から、TAの必要性や重要性が認識され、日本の歴史においてはじめて国会の議論の中にTAが位置づけられる動きがあり、TA制度化に向けた新たな第一歩が踏み出されようとする今が大変重要な時期であることが強調されました。

さらに、フロアからからは、TAには、技術の社会導入前の事前評価という側面だけではなく、社会に導入された後も継続的あるいは連続的に評価をしていくことの重要性も指摘されました。将来の社会影響の予測を正確に行うことは困難ですが、その過程を継続していくプロセスが大切であり、将来の予測が当たることよりも、事前にあらゆる状況を考えておくことの意義を確認して、シンポジウムは終了しました。

(文責・畑中綾子)