I2TA3月公開シンポジウム議事概要

さる3月9日(火)に開催したI2TA公開シンポジウムの議事概要を下記の通りまとめました。シンポジウムのプログラムはこちら。なお、詳細な議事録については後日ホームページ等で公開し、小冊子を関係者に配布する予定です。

2010年3月16日

公開シンポジウム議事概要

 本シンポジウムでは、科学技術政策に関するこれまでの日本で閉じていた政策形成プロセスをどのようにして開いたものにしていくか、そのためにテクノロジーアセスメント(TA)がいかなる役割を果たすことができるのか、TAの日本での制度的仕掛けはいかにあるべきか、といった点について、議論を行った。シンポジウムではまず、ヒル氏とコープ氏から米国と英国・欧州におけるTAのあり方について講演と質疑応答を頂き、その後パネリストによる討論を行った。

Christopher Hill, "U.S. Experience in Technology Assessment: Insights for Japan"

 ヒル氏は米国の議会技術評価局(OTA)の歴史を振り返りながら日本に向けた教訓を提示された。米国では1960年代に軍事や環境に関する問題が社会的に大きくなり、これらに関して議会をサポートする機関が必要とされていたことから1972年にTAのための法律が制定され、OTAが誕生した。両院両党からの同数のメンバーによるOTAの理事会は特異な構成である。1995年に民主党が議会で多数派でなくなると、OTAは廃止された。気候変動への対応等についてはOTAの復活が望まれているが、TA機関のあり方としてネット時代では新しい形がありうるとした。

David Cope, "European Experience in Technology Assessment: Insights for Japan"

 コープ氏は、米国での実践を受けて欧州の各国・各地域にTAの制度化が広がった流れを含め、過去から現在、将来にまでつながる話をされた。1980年代から始まった欧州におけるTAは米国と異なり議院内閣制をとる諸国にも広がりを見せ、現在、欧州議会TA機関のネットワーク(EPTA)にはEU・各国・地方の議会TA機関が加わっている。議会とTA機関との関わりは国や地域によって様々であるが、英国議会科学技術室(POST)は限られた資源で運営しているとした。

 引き続き、I2TAの城山リーダーより、TAにおいては、技術の社会的影響を多面的に評価する仕掛けが大事であることが強調された。TAによって技術の多面的影響を明らかにした上で、最終的な決定は意思決定者が行うことになる。TAの制度化の具体的なあり方としては、議会あるいは設立が検討されている科学技術戦略本部といった政府レベルでのTA機関の制度化、政府によるTA活動のための資金枠の設定、個別研究開発機関等のイニシアティブによる制度化、国際的制度化と大きく4つの方式が示された。これらは両立しうるものである。

I2TA「日本におけるテクノロジーアセスメント制度化の必要性と選択肢(案)」(2010年3月9日)

 その後、鈴木副大臣、林参議院議員、有本センター長を含めたパネルディスカッションでは、以下のような点が議論された。
(1)科学技術イノベーション政策のコミュニティが育つ必要がある。納税者への説明責任という点でも、科学技術の社会的影響に関する説明する枠組みを豊かにする必要がある。そのため、従来の科学技術官僚だけでなく民間の人材が関わっていけるような仕組みが望まれる。
(2)科学技術イノベーション政策形成の支援のためには、TAばかりでなく、他の戦略的意思決定支援ツール、ELSI(倫理的・法的・社会的問題)や科学技術コミュニケーションといった関連するアプローチも重要になる。
(3)科学技術イノベーション政策コミュニティ形成においては、関連するアプローチが連携して人材を幅広く育成していくことが必要となる。ただし、若手の人材がこうした新たな領域に携わるリスクを低減するため、研究費の一定比率をTAやELSIに充てるような継続的な資金提供の枠組みが求められる。
(4)議会TAについては、OTAの存在した大統領制と日本のような議院内閣制では状況が異なるところもあるが、議院内閣制の欧州にも議会TA機関はある。日本でも世紀転換期前後に議会の特別委員会や英国会計検査院(NAO)のような議会への報告機関を設立する構想は議論されており、可能性はある。
(5)科学技術は未知の領域に対して研究を行っていくものであり、評価の不確実性は不可避である。関係者が知を持ち寄って良い方向を見出すために努力し続けるというダイナミズムが大事となる。自分の知らない領域があるということを知っている人、矛盾や曖昧さに耐えられる精神的力のある人が評価やアセスメントの担当者となることが大事である。また、ポートフォリオに基づく研究課題のアセスメントにより、公的研究開発の全体をバランス良くしていく必要がある。
 以上の議論をうけて、リップ氏から3点のコメントがなされた。①欧州TA機関では様々な形の市民関与(public engagement)を実践しており、これは本シンポジウムのテーマである「オープン化」にも寄与する。②オランダではナノテク研究コンソーシアムの中にELSIプログラムを抱え、市民関与を通じたTAをイノベーションに結びつけている。また、ナノ研究をしている博士課程の学生に数ヶ月ELSIなどの問題に携わってもらい、感受性を育み、ある意味で人材育成を行っている。③TAの哲学は、将来の予期とそこからのフィードバックという試行錯誤を通して、社会的コストの低減をすることにある。続いて、ロジャース氏からは5点のコメントがなされた。①複雑で不確実な世界において、意思決定者は最適な政策のための助言を求めている。②意思決定者に影響を与えるには提言をしないといけない。彼らはそれを受け入れるか否かの選択をするが、受け入れなかった場合については説明する必要がある。③提言はタイムリーかつ効果的にコミュニケーションできるものである必要がある。④提言にあたっては公に広く議論することばかりでなく、非公式で私的な議論の場も大切である。⑤TAの制度化に際しては、小規模で始め、その実効性を実証しながら社会的認知を高めれば、資源も増えて拡大していくといった段階的なアプローチも有望である。
 このほかフロアからの議論も踏まえて、理科系研究者における文科系的素養の必要性、TAやELSIにおいては現場との接点を持ち取り組みが自己目的化しないことが大事であること、社会的課題設定のための組織的取組みの必要性について意見が出された。

文責:吉澤剛・城山英明